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売れるブランドは、なぜ「思い出される」のか?

 

売れるブランドは、なぜ「思い出される」のか | 思考の構造
MARKETING / BRANDING
売れるブランドは、
なぜ「思い出される」のか
佐竹 正宏|思考の構造

前回は、「かっこいいブランディング」が失敗する理由を見ました。

データや失敗事例を見るかぎり、ブランドは万能ではなかった。
おしゃれにすることで、識別性を壊して売上を落とした事例もありました。

では、本当に強いブランドは何をしているのでしょうか。

今日はその答えを、バイロン・シャープらの理論をもとに整理します。

キーワードは2つです。
「買う瞬間に頭に浮かぶか」と、「浮かんだあとにすぐ買えるか」。

今日は「ブランドをかっこよく見せる方法」ではありません。
「どうすれば買う瞬間に選ばれるか」を整理する回です。


1. ブランドの本質は「好感」ではなく「想起」にある

バイロン・シャープは、Ehrenberg-Bass Instituteの研究者です。
著書『ブランディングの科学』の中で、ブランドの役割について重要な整理をしています。

その核心は、ブランドは「好きにさせること」より「思い出させること」だ、という点です。

これをメンタル・アベイラビリティと呼びます。
難しい言葉ですが、要するに「買う瞬間に、頭から取り出しやすいか」です。

ハンバーガーが食べたくなった時に、最初に浮かぶ店はどこですか。
家を探そうと思った時に、最初に開くサービスは何ですか。

この「最初に浮かぶ」という位置を取れているかどうかが、ブランドの強さに直結します。

ブランドは人気投票ではなく、
脳内の検索結果で上位に出ること。
好感度より、取り出しやすさ。

「好感度があれば思い出されるはず」と思いたくなりますが、両者はイコールではありません。
良い印象を持っているサービスと、実際に使うサービスが一致しないことは、よくあります。

 

2. 人は「いいと思うもの」より「すぐ使えるもの」を選びやすい

具体的な場面で考えてみます。

SUUMOの記事を読んで「いい会社だな」と思うことはあります。
でも、実際に家探しを始めた瞬間、スマホのホーム画面にあるLIFULL HOME'Sのアプリをそのまま押してしまう。

人は、頭の中でじっくり比較表を作ってからアプリを押すわけではありません。
スマホを開いた瞬間、いつもの場所にあるものをそのまま押します。

これは「LIFULL HOME'Sの方が好き」という判断ではありません。
指が届く場所にある、という物理的な事実が、行動を決めているのです。

好印象だけでは選ばれない。
指が届く場所にあるものが勝つことがある。

ブランドは好感度の貯金箱ではなく、
使う瞬間の近道です。
頭に浮かんでも、手が届かなければ売上にはならない。

UIや導線はブランドとは別の話だ、と感じるかもしれません。

でも、想起されやすく使われやすい状態を作ることが、実務上のブランドの強さです。
棚も、アプリも、検索導線も、すべてがブランドの一部と考えた方が現実に近い。


3. 「思い出される」だけでは足りない。「すぐ買える」もセットで必要

バイロン・シャープの理論では、メンタル・アベイラビリティと並んで、物理的アベイラビリティも重要とされます。

物理的アベイラビリティとは、「思い出したあとに、すぐ買える状態」です。

頭に浮かぶだけでは足りない。
その場で買える、見つかる、押せる、置いてある、在庫がある——この状態まで必要です。

飲み物を思い出しても、コンビニ棚になければ買えません。
使いたいサービスを思い出しても、アプリがなければ別のものを使います。
指名検索しても、見つけづらければ離脱します。
店頭で認知しても、何かわからなければ手に取られません。

想起と販路はセットです。
想起と棚、想起と検索導線、想起とアプリ配置も同じです。

物理的アベイラビリティの確認ポイント
棚・売り場で見つかるか
販路・流通に乗っているか
検索して出てくるか
アプリや導線が近い場所にあるか
在庫・提供可能な状態にあるか

思い出されたあとに買えないなら、ブランド活動は途中で途切れています。

頭の入口と、売り場の出口。
両方で勝たないと売上にならないのです。


4. 小さなブランドに厳しい、ダブル・ジョパディの法則

Ehrenberg-Bass Instituteが示したダブル・ジョパディの法則があります。

内容はシンプルです。
シェアが低いブランドは顧客数が少ないだけでなく、そのうえリピート率も不利になりやすい、というものです。

つまり、小さいブランドは二重に苦しい構造を抱えています。

「ウチには熱狂的なファンがいるから大丈夫」という考え方は、ここで揺らぎます。

ファンの存在を否定したいわけではありません。
ファンだけに賭ける発想が危うい、ということです。

だからこそ、まずは広く想起されること、入り口に乗ることが重要になります。

小さな部屋の中で盛り上がっていても、市場全体では見つけてもらいにくい。
想起の間口を広げることが、小さなブランドほど先に必要なのです。

5. 実務では、何を残し、何を増やすべきか

ここまでの話を、実務に落とします。

優先すべきは、この3つです。
①すぐわかる。
②すぐ思い出せる。
③すぐ買える。


そのためには、色・形・名前・ロゴ・音・配置・パッケージの特徴など、脳内と売り場の「目印」を消さないことが重要です。

デザインを刷新するなら、おしゃれにする前に識別性が落ちていないかを確認する。
会議室で評価されるデザインより、現場で0.5秒で見つかるデザインを優先する。

「ちょいダサ」と言われることがあっても、それはわかりやすさを優先した結果であって、ダサさ自体を目指す話ではありません。

記憶される要素を守ることは、古くささではなく資産の保全です。

ブランド施策の判断フレーム
名前を隠しても、何の商品かわかるか
売り場や画面で、0.5〜3秒で見つかるか
想起されたときに、買う導線がすぐあるか
色・形・ロゴなどの記号を、毎回変えすぎていないか
会議室の評価ではなく、現場での識別に耐えるか

美しさを否定しているわけではありません。
機能する記号の上に美しさを乗せる、という順番が大事なのです。

ブランドは作品より先に、案内標識です。
迷わせないことが、まず売上に近い。


まとめ
TODAY'S POINT
ブランドの本質は「好かれること」ではなく「買う瞬間に思い出されること」
思い出されたあとに「すぐ買える」状態もセットで必要
小さなブランドほど、広く想起される間口を作ることが先決
消してはいけない記号を守り、導線を整えることがブランドの実務

あなたの商品は、買う瞬間に頭に浮かびますか。

浮かんだあと、すぐ買える場所にありますか。

見た目を磨く前に、消してはいけない記号を消していませんか。

売れるブランドは、好かれるブランドではありません。
思い出されるブランドです。
さらに強いブランドは、思い出されたあとに、すぐ買えるブランドです。

ブランドは、センスの勝負というより、
迷わせない設計の勝負です。
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